アプリケーション・用途

スコープ3排出削減のための製品開発を加速

消費電流と熱エネルギーの損失の記録によるスコープ3排出削減

スコープ3(*1)エミッションを達成し、脱炭素(カーボンニュートラル、ゼロカーボン)への適合を実現するためには、自社製品が環境に与える影響を正しく把握する必要があります。今後、メーカーは自社製品の消費電力をエンドユーザに明示しなければなりません。開発エンジニアにとって、製品の消費電力の削減が重要なタスクとなります。

このアプリケーションノートでは、スコープ3の実現を悩む開発者向けに電流と温度のデータ収集によってどのように電子機器内の部品のエネルギー損失を発見できるヒントを紹介します。

*1 : スコープ1、2、3とは

  • スコープ1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
  • スコープ2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
  • スコープ3:スコープ1、スコープ2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出) 

背景

電子機器には安定かつ適正な電源を供給するためにスイッチング電源が搭載されています。スイッチング電源は商用のAC電源から低圧のDC電源に高効率に変換する必要があります。高効率の電源にするには、できるだけ熱損失を抑えるマネジメントの必要があります。発熱する熱エネルギーは、エネルギーの損失に直結するため、できるだけ小さい方が良いということになります。電子機器内に使用される部品の消費電流と熱による損失を把握することで、製品の消費電力を削減する対策ができます。

開発製品の消費電力削減における課題

開発製品の消費電力を削減するには以下のような課題が挙げられます:

  1. 異なる動作モードによる消費電流の把握
  2. エネルギー損失点の把握
  3. 開発のスピードへ対応

1. 異なる動作モードによる消費電流の把握

メーカーはエンドユーザーに対し自社製品の消費電力を明示することを求められています。電力計を使って製品の定格電力を測定することはもちろん、異なる動作モードの消費電力のデータのニーズも高まっています。開発製品の消費電流を待機、定格動作、過負荷などのさまざまな動作モード検証したデータは、その製品を使用するエンドユーザーにとっても貴重なデータであり、スコープ3へ取り組みも迅速にできるというメリットがあります。

2. エネルギー損失点の把握

エネルギーの無駄を減らすために、消費電流、発熱や振動などのエネルギー損失を同時に把握することによって、それらの因果関係が分かりやすくなります。例えば、電気機器内の部品の発熱の多くは、その部品に大きな電流が流れることによって起こります。その電流値と温度の因果関係がわかると、例えば回路内の電流を抑えて発熱量を低減させるといった対策が可能になります。

3. 開発のスピードへの対応

製品の発売スケジュールを守るために、開発エンジニアは限られた検証時間の中で、長期信頼性、耐久性、破壊試験などを遅延なく実施する必要があります。世の中の変化のスピードに対応するために、開発スピードを高め、効率的に評価を進める必要があります。そのため多点計測かつ電流や温度などのさまざまなパラメーターを同時に記録する必要があります。

消費電流と温度を記録し、無駄を特定するためのHIOKIからの提案

開発製品の消費電流と温度を長時間にわたり記録することでエネルギー損失の原因が特定できます。データロガーLR8450と小型高精度DC電流センサCT7812(またはCT7822)がこの用途に最適です。LR8450は測定ユニットの組み合わせによって、最大の330チャネルの電流、電圧、温度、温度、振動などの物理量やCANバス上のデータを観測できる多チャネルのロガーです。


LR8450とCT7812(またはCT7822)が以下の理由で今回のような開発製品の消費電流と温度の測定に最適です:

  1. クランプするだけで測定できる人差し指サイズの高精度電流センサ
  2. 各種パラメータの同時測定でエネルギーの無駄を特定できる
  3. 汎用性のある計測モジュール

1. クランプするだけで測定できる人差し指サイズの高精度電流センサ

小型DC電流センサCT7812(2A)、CT7822(20A)は、電源装置周辺の狭い場所へのアクセスに最適です。配線を切断することなく、クランプするだけで測定できるため、製品システムに与える影響や接続のための工数を最小にします。また、すでに設置されている設備の消費電流を把握するといった保守用途にも適しています。フラックスゲート技術を使用したこの電流センサは、低ドリフトで温度安定に優れているため、長時間高精度の消費電流を記録できます。


フラックスゲート技術についての詳細はこちら。

2. 各種パラメータの同時測定でエネルギーの無駄を特定できる

電流センサがアクセスできない部品レベルの損失を特定するためには、温度や振動測定が効果的です。LR8450データロガーは、温度測定と熱流測定、振動やひずみ測定にも対応しています。消費電流と同時に記録することで、発熱や振動などに起因するエネルギー損失が速やかに特定できます。記録データはリアルタイムにディスプレイに表示され、設計検証およびデバックを加速します。


3. 汎用性のある計測モジュール

LR8450には7つの計測モジュールがあり、さまざまな信号記録をサポートしています。基本的な記録パラメータである電圧・電流・抵抗と温度だけでなく、パルスやロジック出力のセンサ、ひずみゲージセンサ、CANバスの計測データを統合できます。計測チャンネル数の拡張性が高いのでさまざまな評価用途に利用できます。

評価用途の例:

  • 温度サイクル試験:PTの温度センサを使用し、製品温度を高精度に記録
  • ケーブルの屈曲耐久試験:配線抵抗をモニタ
  • バッテリーの釘刺し試験:急激な電圧変化や温度変化を高速1msサンプリングで記録
  • 大規模な熱試験:熱設計の検証のため、詳細な温度データを取得、最大330ch

組み合わせる製品の紹介

図1は、電子機器内の部品の電流と温度を測定するための組み合わせ例です。電流測定用モジュールは、直結タイプのU8556とワイヤレスタイプのLR8536があります。どちらのモジュールにも最大の5本の電流センサと接続できます。LR8450が電流センサのモデルを自動認識し、電流スケールに変換してデータを表示するため、機器を設定する手間も省けます。温度記録に関しては電圧・温度モジュールU8550またはワイヤレスモジュールLR8530とT熱電対の9811を使用をします。


表1はLR8450と使用できるHIOKIのセンサを表してます。測定する電流の容量、導線の直径、使用用等に合わせて、HIOKIではさまざまな電流センサを提供しています。

表1:LR8450に対応する電流センサーの一覧

製品 タイプ 電流 最大導線の直径 用等
  • CT7812
  • CT7822
  • 小型・高精度 AC/DC
  • 2 A
  • 20 A
  • φ 5 mm 電子機器部品の電流測定
  • CT7731
  • CT7736
  • オートゼロ AC/DC
  • 100 A
  • 600 A
  • φ 33 mm インバーターなどの電流測定
    CT7742 オートゼロ AC/DC 2000 A φ 55 mm 高電流のインバーターなどの電流測定
  • CT7126
  • CT7131
  • AC
  • 60 A
  • 100 A
  • φ 15 mm 商用電源などの電流測定
    CT7116 AC 6 A φ 40 mm AC漏れ電流測定
    CT7136 AC 600 A φ 46 mm 商用電源などの電流測定
  • CT7044
  • CT7045
  • CT7046
  • AC 6000 A
  • φ 100 mm
  • φ 180 mm
  • φ 254 mm
  • 商用電源などの電流測定 

    最後に

    電子機器を製造するメーカーでも製造、販売、消費、廃棄に至るまでの温室排出ガスの削減が求められます。HIOKIのデータロガーLR8450と電流センサは製品の消費電流と、熱や振動などのエネルギー損失のデータを見える化にして、開発者にとっての省エネ設計の第一歩になります。今回紹介した製品LR8450についてより詳しく知りたい方は製品ページへご確認ください。また、製品のデモ依頼やアプリケーションに関する相談はHIOKIの担当者にご連絡ください。

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