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メモリハイコーダの使い方

メモリハイコーダとはデジタルオシロほどのサンプリング速度はありませんが、多種の信号をアイソレーションアンプや絶縁アンプなしに電位差を気にせず使えるデータアクイジション (DAQ)・波形記録計・レコーダです。

01. メモリハイコーダとは

メモリハイコーダの基本原理

波形観測装置として代表的なものにオシロスコープ、電磁オシログラフ、ペンオシログラフ(ペンレコーダ含む)がありましたがデジタル技術の発展により、アナログオシロはデジタルオシロへ、電磁オシログラフ、ペンオシログラフはメモリ式レコーダ(トランジェント記録計)へと置き替わりました。

このメモリ式レコーダがメモリハイコーダです。メモリハイコーダの基本構成を図1-1に示します。A/D変換器、データメモリ、波形表示部、プリンタとそれを制御するCPUからなっています。A/D変換器で入力アナログ信号をデジタル変換し、それをメモリに記憶し、波形として表示ならびに印字しています。

アナログ記録計との比較

アナログ記録計のペンオシログラフ(ペンレコーダ)、電磁オシログラフがメモリハイコーダに置き換わった理由についてここで説明します。
ペンオシログラフは入力信号の振幅に比例してサーボモータを動かし、ペンを移動させ記録する自動平衡式記録計で、数十Hzの応答速度がありますが、振幅を機械的に実現しているため応答速度には限界があり、インク式であればそのメンテナンスも必要です。

次に電磁オシログラフですが、高感度の反照検流素子を使い、それが入力信号の振幅にあわせて振れ、光源からの光を反射させ感光紙にあて記録させるというものです。この方式で紙送速度200cm/Sec(5ms/cm)の高速記録が可能で、数kHzの応答速度を持ちますが、高速ゆえに感光紙のランニングコストならびに反照検流素子の取扱に難点がありました。

メモリハイコーダは記録印字部にサーマルドットアレイプリンタ(8点/mmの高分解能)を採用していて、ペン等の稼動部がないので信頼性も高く、サンプリングスピードで20MS/s(50ns)の高速応答のものが一般的となっています。
また豊富なトリガ機能を有していて、必要とする波形データのみを取り出す事ができるのでランニングコストも抑えられます。また本体コストも機能・性能がアップしているにもかかわらずローコスト化していて、こういった理由から電磁オシロ、ペンレコーダはメモリハイコーダへの置き換えが進みました。

メモリハイコーダの各部名称・機能

波形表示用にカラー液晶と印刷用にプリンタを備えます。表示も印刷もある程度の信号の速さまでリアルタイムに描画します。(サンプリング速度10kS/s以上でリアルタイムに画面表示します)

サンプリング速度は最高20MS/sとデジタルオシロより低速ですが、多くの信号入力を、アイソレーションアンプや絶縁アンプを使わずに電位差を気にすることなく使えるのが特長です。

メモリされたデータは本体内蔵のSSDやCFカード、USBメモリに保存できます。
入力用ユニットは1枚あたり基本2CHの入力が可能で、DC1000V(AC700V)まで入力可能なユニットや、動歪みや熱電対、ロジック入力など、ユニットの差し替えで対応できるのが特長です。

USBやLANでパソコンと接続することにより、データの転送やリモート操作が可能です。

メモリハイコーダの用途(デジタルオシロスコープ データロガーとの違い)

現在、記録・波形観測装置として大別すると高速域のオシロスコープ、中低速域のメモリハイコーダ、低速域のデータロガーと3種類あります。何を選択するかとなると測定する信号波形の周波数や記録間隔による選択か、測定回路上でGND電位が異なる場合、入力する信号の電圧値などによって決まります。

デジタルオシロスコープは高速現象を観測する点では優位ですが、オシロスコープはch間のGNDが共通であるため、測定回路においてGNDに電位差がある所での測定や強・弱電が混在するメカトロ制御回路等の測定では回路間の短絡ならびに地絡といった事故を引き起こす危険性があります。

メモリハイコーダはch間が絶縁されているため、商用電源のAC波形を観測しつつDCの制御系の測定や、インバータ、コンバータの入出力間の波形記録などが可能で、前述の強・弱電混在回路での測定において威力を発揮します。

またサンプリングスピードの向上により、可聴周波領域以上のf特をもち、後述の各種入力ユニットの充実により電気計測から機械・振動といった物理計測まで可能となりました。図1-6に各分野別の信号波形の周波数帯域ならびに対応する波形観測装置の帯域を示します。

02. デジタルオシロスコープとメモリハイコーダの比較

アイソレーションアンプ、絶縁アンプが不要

メモリハイコーダとデジタルオシロスコープの大きな違いは、入力チャンネル間および本体と入力チャンネル間が絶縁されているか否かです。

メモリハイコーダは入力チャンネルがそれぞれ電気的に切り離されています。デジタルオシロスコープやいわゆるA/Dボードは入力チャンネルとー側が、アースと接続されています。

基板上の電気信号の観測などの場合、GNDが共通な多点信号を観測するのでデジタルオシロスコープが向いていますが、図2−1のような電力変換器(コンバータやインバータ)の入力と出力を同時観測する場合は、デジタルオシロスコープでは内部で短絡してしまいます。

このような電位差がある信号を多点で入力させる場合に、メモリハイコーダは大変重宝します。

デジタルオシロスコープの場合、アイソレーションアンプや絶縁アンプを介して入力しなければなりません。

分解能と確度の違い

分解能とは入力信号をアナログ・デジタル変換するときのきめ細かさです。

デジタルオシロスコープの場合、分解能が8ビット(256ポイント)のものが多く、例えば±10Vのレンジであれば、フルスパンの20Vを256ポイントで割った0.078V刻みでしか値は読めません。

メモリハイコーダは12ビット(4096ポイント)が主流で、同じような条件では0.0048V刻みで値が読めることになります。分解能が24ビットのものでは0.000001192V刻みで値が読めることになります。

また確度の違いもメモリハイコーダの方が有利で、一般的なデジタルオシロスコープが ±1%fs 〜 3%fs であるのに対し、メモリハイコーダは ±0.01%rdg±0.0025%fs 〜 ±0.5%fs になります。

機器の変位や振動などのセンサ出力をより細かく見ることができます。

チャンネル数が多く、多種の信号に対応

一般的なデジタルオシロスコープが4チャンネルなのに対し、メモリハイコーダは機種により2チャンネルから54チャンネルの信号入力に対応できます。

また多種な信号に対応できるよう、入力ユニットの差し替えが可能です。

DC1000V (AC600V) の電圧入力が可能なアナログユニットや、熱電対・歪みゲージ・加速度ピックアップを接続できるユニットや、高精度な電流センサを接続できるユニットなどがあります。

また信号入力だけでなく、ファンクションジェネレータや任意波形発生機能をもった信号出力が可能なユニットもあります。 

モーターやインバータ・コンバータの電圧・電流波形と制御信号との混在記録、ガソリンエンジンの歪みと点火波形記録など、デジタルオシロスコープでは実現できないメカトロニクス分野で、メモリハイコーダは活躍します。

03. メモリハイコーダの測定機能

メモリハイコーダの基本測定機能

レコーダで長期的な変動記録をとりつつ、突発現象が起きたときはメモリレコーダで記録するといったことができます。

■ FFTファンクション
周波数分析機能、振動等の周波数成分の把握が可能です。

■ ロジック記録機能
アナログ入力の他にロジック記録ができます。デジ・アナ混在記録により、シーケンス・タイミング等の計測が可能です。

※ メモリハイコーダの「製品一覧」は、 こちら を参照願います。

04. トリガ機能

トリガ機能とトリガ種類

メモリハイコーダの設定機能として重要な部分がこのトリガ機能です。高速トランジェント記録をする場合、人間の手でスタート・ストップをすることは不可能で、かつ複雑なパターンでのスタート・ストップはこのトリガ機能を使って容易にかけることができます。

以下にメモリハイコーダがもっているトリガ機能について紹介します。

メモリハイコーダがもっているトリガソースは図4-1に示す種類があります。マニュアルトリガを除いた各ソース間でのAND/ORの条件でトリガがかけられる。またアナログch間およびロジックch間でもそれぞれAND/ORの条件でトリガがかけられるようになっています。

■ レベルトリガ
レベルトリガは入力電圧が設定したトリガレベルを超えたときもしくは下がったときにトリガがかかります。
また、ノイズなどでのトリガを防ぐためにトリガフィルタの設定ができるようになっています。

■ ウィンドイントリガ
トリガレベルが上下限の設定値の中に入ったときにかかります。

■ ウィンドアウトトリガ
トリガレベルが上下限の設定値の外に出たときにかかります。

■ 電圧降下トリガ
商用電源(50/60Hz)専用のトリガで瞬時電圧降下、瞬時停電などの検出が可能です。ピーク値(もしくは実効値)を設定し、それより下がったときにトリガがかかります。

■ 周期トリガ
設定した時間幅から外れた場合、トリガがかかる。周波数変動などでトリガをかけることができます。

■ 実効値トリガ
実効値のレベルでトリガがかけることができます。

■ ロジックトリガ
ロジック入力の論理パターンによってトリガがかかります。

■ タイマトリガ
指定したスタート時間およびストップ時間内で指定したインタバル時間事にトリガがかかります。
開始   ‘00-1-1 0:00
停止   ‘00-1-2 0:00
時間間隔   1:00

■ 外部トリガ
外部信号によってトリガをかけます。無電圧接点信号ならびに5-0Vの信号でトリガがかかります。また外部トリガには入力と出力の2つがあるので、もう一台のメモリハイコーダに出力を接続することで同期してトリガをかけることができます。

■マニュアルトリガ
操作部のマニュアルトリガキーを押すことでトリガがかかります。

トリガモードについて

測定動作が終了した後も繰り返し、トリガを受けつけるかを下記モードで設定します。

■ 単発(single)モード
1回のみトリガを受け付け、トリガが1回かかるとその記録長分だけ波形を記録し測定を終了します。

■ 連続(repeat)モード
連続してトリガを受け付けます。トリガがかからないときはトリガ待ちの状態となります。

■ 自動(auto)モード
連続してトリガを受け付けます。約1秒経過してもトリガがかからない場合は自動的に記録長の波形を記録します。

プリトリガについて

測定をするとき、設定記録長の記録開始点を0%、記録終了点を100%としてトリガ点をその何%にするかを設定します。このプリトリガを設定することでトリガ(故障・異常発生)以前の状況を確認することができます。

05. メモリハイコーダ使い方・設定例

産業分野別の使用例

1. 電気・電力関連分野

■ 電源解析(瞬時停電、瞬時電圧降下、電源ノイズ、高調波解析)
■ 電気制御系トラブル解析
■ ブレーカ・マグネット遮断特性解析
■ 漏電・地絡回路検出
■ 発電機、負荷遮断試験
■ 電池充・放電試験
■ サーボモータ・フィードバック系解析
■ 磁気カード再生信号解析他
■ インバータ入出力解析

2. 自動車・電車・交通分野

■ 自動車・エンジン制御試験
エンジン燃焼解析、ECU信号解析、ABS、サスペンション、ナビシステム、エアバック、4WD、トランスミッション、各種走行振動試験、各種センサ信号解析他。
■ 電車制御試験
各種電子制御試験、インバータモータ制御試験、列車運転制御試験他。 ブレーキ特性、振動解析等。

3. 生産・機械分野

■ 製鉄・化学各種プラント制御解析
プラント各種計装信号解析、電磁弁他、制御系異常解析。
■ プラント設備メンテナンス、モータ・ベアリング振動解析
■ 油圧機器圧力試験
■ 設備機械、固有振動数の解析
■ 射出成形機の各種制御解析
■ 回転機器、異常診断
■ 溶接電流測定
■ 各種自動化設備、異常解析

4. 保守・メンテナンス分野

■ エレベータ加速度試験、電気制御異常解析
■ 各種回転機器診断

5. その他

■ 材料試験(圧縮、引っ張り、荷重、振動、衝撃試験他)
■ 医療関連(心電波形記録、各種ME機器との組合わせによる測定)
■ 建築・土木(振動、衝撃試験、物体の固有振動解析)
■ 化学(火薬爆発試験・圧力解析)

直流電源の入出力特性測定例

目的:
電源SW投入後の出力の立上り時間を計測します。

ポイント:
電源SWのON時の1次側入力の立上りでレベルトリガを使ってかけます。

1)記録長の設定
2秒間ぐらいとりたいので100ms/DIV、Shot長(記録長)を20DIVに設定します。

2)入力レンジの設定
一次側はAC100VなのでP-P値で282Vになるのでch1を100V/DIVに設定します。二次側はDC5Vなので2ch目を1V/DIVに設定します。

3)トリガ条件の設定
SWがONとなれば0→100V(rms)となるのでトリガレベルを0V以上のスロープ↑とする。ここでは10Vに設定する。

4)プリトリガの設定
SW・ON以降のデータがほしいのでプリトリガの設定を10%とします。

5)トリガモード設定
1回のみの測定なので単発(single)モードとする。

6)記録印字の設定
トリガがかかれば自動でプリントしたい場合はステータス(設定)画面で自動プリントをONにします。
外部メモリに自動保存したい場合は各種メディアを選択し、保存形式のバイナリ形式もしくはテキスト形式を選択ONにします。
また自動プリントOFFでも画面上にデータを取り込めば、後でプリントキーにより記録印字できるのでここではOFFとします。

7)トリガ待ち設定
入力コードの接続を確認し、スタートキーを押します。トリガ待ちの表示がでればokです。

8)記録
電源のSWの投入をします。間違いがなければ波形データの取込が完了し終了です。

直流電源の入出力特性測定例2

目的:
電源SW投入後の出力の立下り時間を計測します。

ポイント:
AC電源の立下がりでトリガをかけます。ch1のレベルトリガではトリガはかけられないのでピーク値検出方式の電圧降下トリガを使うかDC出力の電圧レベルの立下りでトリガをかけます。またライン用ロジックプローブがある場合は入力のロジックレベル1→0でトリガをかける方法があります。
ここでは電圧降下トリガを使っての測定手順を紹介します。この電圧降下トリガが理解できればAC電源の瞬時停電・瞬時電圧降下の測定が可能となります。

■ 電圧降下トリガによる測定

1)記録長の設定
5秒間ぐらいとりたいので500ms/DIV*10DIVに設定します。

2)入力レンジの設定
一次側はAC100VなのでP-P値で282Vになるのでch1を100V/DIVに設定します。二次側はDC5Vなので2ch目を1V/DIVに設定し、表示ONにします。

3)ポジションの設定</strong>
ch1と2が重ならないように0ポジションを60%、10%付近に設定します。(データ取得後で各ch表示が重なったとしても、後でポジション変更が可能なので重なっても良いです。)

4)トリガ条件の設定
ch1にて電圧降下トリガを選択し、5Vに設定します。

5)プリトリガの設定
SW・OFF以降のデータがほしいのでプリトリガの設定を10%とします。

6)トリガモード設定
1回のみの測定で良いので単発(single)モードとします。

7)記録印字の設定
(「直流電源の入出力特性測定例」 と同じです)

8)トリガ待ち設定
入力コードを接続しスタートキーを押します。トリガ待ちの表示がでればOKです。

9)記録
電源のSWをOFFします。間違いがなければ波形データの取込が終了します。

※ 接続図は図5-1と同じです。


■ ライン用ロジックプローブによる測定

トリガ条件の設定変更とロジックchの表示の設定変更を行ないます。他は前述の設定と同様です。

1)トリガ条件の設定
ロジック入力でトリガをかけるのでロジックトリガの設定を行ないます。chA1[0.×.×.×]4とし、chA1が1→0となる条件でトリガをかけます。

2)ロジックchの表示
ch表示画面でロジックchのA1を表示させます。

3)以降、前項と同様の設定です。

これを応用し、シーケンス制御回路等で自己保持回路がリセットされてしまう不具合がある場合、自己保持回路の電圧のある・なしでトリガをかけることにより、電源回路などの不具合解析が可能になります。

モーターの始動電流波形測定

目的:
通常の電流計等による測定では瞬時の負荷電流変動や始動電流などは測定できませんが、メモリハイコーダではクランプ電流センサと組合わせて簡単に波形レベルでの測定が可能になります。

ポイント:
クランプ電流センサを使用し、始動電流にてトリガをかけます。スケーリング機能を使って電流値が直読できるようにします。使用するクランプ電流センサは9018型センサを使用します。出力レートはAC500A→AC200mVです。またトレースカーソルを出して最大値ならびに突入電流の時間を測定し、最後にパラメータ演算機能を使って最大値を求めます。

1)記録長の設定
負荷によって異なりますがここでは0.5秒間とることにし、50ms/DIVで10DIVの設定とします。

2)入力レンジの設定
使用するクランプ電流センサの出力がAC200mVなので50mV/DIVのレンジとして、0ポジションを50%とします。

3)スケーリングの設定
システムのスケーリング設定画面で二点スケーリングを選択し図5-12のように設定します。スケーリングの有効・無効はENG設定を入れることで10の3乗・6乗単位となるのでK・M・G単位で読み取りができます。

電圧   スケーリング二点数値      単位記号
HIGH 側 0.2000E+00 → 5.0000E+02  [A]
LOW  側 0.0000E+00 → 0.0000E+00

4)プリトリガの設定
トリガ以降が必要なので10%とします。

5)~8) (「直流電源の入出力特性測定例」 と同じです。)


6)最大値演算の実行
ステータス(設定)画面にてパラメータ演算を選択ONにし、ch1のみ演算指定をします。データは残っているので点滅カーソルをパラメータ演算ONのところへもっていくとファンクションキーのGUI表示に実行キーがあるのでそれを押します。画面上に最大値の結果が表示されます。

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