アプリケーション・用途

平角エナメル線の抵抗測定における放射温度センサーを使った温度補正

課題

抵抗値は被測定物(DUT)の温度により変化します。抵抗計には温度センサー用の端子があり、測定した抵抗値と温度から基準温度の抵抗値に換算する機能があります(温度補正機能)。この温度補正機能により、温度変化の影響を受けずに抵抗を測定できます。工場内などの環境温度になじんだ DUT の場合、室内温度= DUT の温度として温度補正機能を使います。DUT の温度と室内温度に差がある場合や、DUT によって温度が違う場合は、放射温度センサーを使った非接触温度測定により温度補正し、自動検査をしています。しかし、DUT が光沢のある低放射率の物質である場合、放射温度センサーでは正確に温度を測定できません。また、前工程から時間を置かずに巻線抵抗を試験するステーター製造ラインの場合、DUT ごとに温度が違います。抵抗測定時の DUT の実温による温度補正は長年の課題でした。

解決策

放射率は物体の表面状態や形状により異なります。そのため、物理定数により規定された放射率を採用するより、接触式温度センサーの温度値と比較して放射率を決定した方が良い場合があります。キーエンス社の FT シリーズ放射温度センサーは、接触式温度センサーの温度値を校正値としてアンプに入力して放射率を決定する機能があります。

【作業上の注意点】
・接触式温度センサーは、反応が速く素線径が細い熱電対を使います。
・熱電対は非測定物に十分に接触させます。
・室温より 20℃以上高い温度で校正します。(高温の方が精度よく放射率を決められます)
・熱源のノイズ影響がなく、熱電対の温度測定が可能なロガーを使います。(ロガーによってはノイズ影響で温度値がふらつきます)
・チャンバーを使う場合は風避けと熱源対策(遮熱)をします。
・熱電対と放射温度センサーは干渉しない程度に近い場所に設置します。
・熱電対の測定温度が安定した状態の値を採用します。(温度測定箇所が違うので、非測定物が均一な温度状態である必要があります)

【測定方法】
・DUTは平角エナメル線を用意します。
・DUTにT熱電対を貼りつけ、その近くにセンサヘッド(FT-H20)を設置します。
・センサー出力の4-20 mAを250 Ω抵抗で1-5 Vに変換します。
・1-5 Vを抵抗計RM3545A(またはRM3545)に入力します。
・T熱電対はデータロガーLR8450 に接続します。
・風避けと熱源対策(遮熱)のためにアルミニウムかベークライトでDUTを囲みます。
・チャンバーを 45℃、50% RHに設定して運転させます。温度が安定したら、熱電対の温度値をセンサーのアンプに入力して放射率を決定します。
・RM3545A(またはRM3545)とLR8450をPCに接続します。
・チャンバーの温度を変化させながら、Sequence Maker* で作成したプログラムで同時間に双方の温度値を読み取ります。

*Sequence Maker は、計測器を統合制御するExcelアドインです。USB、RS-232C、LAN、GP-IBといった通信インターフェースに対応しています。また、計測器の通信共通ドライバであるVISAにも対応しています。PCにつながった計測器を自動でサーチし、通信を確立するので、制御コマンドを制御したい順番でExcel上に記載するだけで思い通りの制御ができます。

実測データ

T 熱電対を基準にしたΔt(放射温度センサー温度から熱電対温度を差し引いた値)のグラフを 右 に示します。

・35℃以上で、Δtは±0.5℃以内に収まりました。
・30℃以下で誤差が大きいのは、DUTからの放射量が少ないことが要因と考えられます。
・チャンバー内の風避けと熱源対策(遮熱)のため、ベークライトとアルミニウムでDUTを囲みました。
・放射量の少ないアルミニウムの方が遮熱効果がありました。

実測データ(温度補正機能)

・23℃で 85.2 mΩが基準値のコイルを放射温度センサーで温度補正し、抵抗計RM3545で測定しました。
・コイルの温度が約 44.5℃の時、23℃換算の抵抗値は 85.2515 mΩを示しました。
・温度補正をしないと92.4527 mΩになりました。
・温度が抵抗値に与える影響は大きく、抵抗測定における温度補正の重要性が分かります。

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