高速リアルタイムデータ出力でHILSと連携できるデータロガー
EVの開発プロセスの検証段階では、シミュレーションシステム(Hardware in the Loop Simulation、以下HILS)が活用されています。バッテリーパックの個々のセルを監視するBMS(Battery Management System)がない状態で検証する場合や、EVの走行環境を模擬して各セルの充放電制御を検証する際は、バッテリーの実機とシミュレーションを組み合わせた検証が行われます。このような検証では、各セルの電圧や温度の測定データをリアルタイムに高速でシミュレーションシステムに取り入れることが求められます。
この記事では、データロガーでバッテリーの各セル電圧や温度を測定し、取得したデータをHILSと連携させる活用事例をご紹介します。
この測定に求められるデータロガーの性能
バッテリーセルの充放電時の電圧変化を詳細に把握するためには、ms単位の短い周期でデータを取得し制御する必要があります。HILSのようなリアルタイム性が求められる制御シミュレーションでは、膨大なセルの測定データを高速でシステムに取り込む必要があります。そのためデータロガーは、高速サンプリングで測定した多チャネルのデータを、低遅延で高速出力する性能が求められます。また高電圧のバッテリーパックの測定をする場合は、安全に試験するための絶縁性能が不可欠です。
この測定に使用するデータロガーには、以下の3つの性能が求められます。
・高速サンプリングで測定したデータをリアルタイム出力できる
・高い絶縁性能を備えている
・高電圧バッテリーの測定に対応できるチャネル数
HILSとの連携に最適なデータロガー
HIOKIのデータロガーLR8102は、実バッテリーを充放電する際の制御シミュレーションに最適な測定器です。電圧・温度モジュールM7100と組み合わせて計測システムを構成します。バッテリーの各セルの電圧と温度を測定し、測定したデータを高速でリアルタイムシミュレーションシステムに出力します。(サンプリング速度は測定するパラメーターや使用チャネル数により制限があります。)
データロガーLR8102と電圧・温度モジュールM7100が、HILSとの連携に最適な理由は以下の3つです。
1. 高速サンプリングで測定したデータをリアルタイム出力できる:最高サンプリング速度5 ms
LR8102はUDP (User Datagram Protocol)で膨大なセルのデータを、サンプリング毎にリアルタイムに出力することができます。
一般的なデータロガーの測定とデータ出力のタイミング
一般的にデータロガーで取得したデータを上位システムに転送するには、通信コマンドでやりとりします。一つのデータを取得するやりとりには数十msから数百msの時間がかかります。数msオーダーのサンプリングで測定したデータを上位システムが受け取るタイミングは、実際に測定したタイミングと大きなズレが生じます。図1は一般的なデータロガーの測定とデータ出力のタイミングを示しています。電圧値はt7より前にしきい値を超えていますが、t9のタイミングまでそのデータを取得することができません。また、数msの測定データを欠損なく上位システムが取得するには、複数のデータを一度に取得する必要があります。しかし、リアルタイムでデータを取得し演算結果をフィードバックするHILSでは、複数のデータをまとめて取得しても、使えるのは最新のデータだけになってしまいます。
図1
■HIOKIのデータロガーLR8102による高速リアルタイムデータ出力
データロガーLR8102は、測定データをサンプリング毎にリアルタイムにUDPで出力できます。各モジュールで測定したデータは新設計の高速差動通信で連結されたデータロガー本体に収集します。データロガーのセカンダリー機からプライマリー機へのデータ転送には、光ファイバーを使った高速通信を採用しています。すべての測定データは5 ms以内にプライマリー機へ集約されます。集約されたデータはReal-time OSでLAN出力されます。こうして測定から出力までを、十分な帯域を持つリアルタイム処理可能なハード構成にすることで、測定データ取得タイミングの低遅延を実現します。データロガーからシステムへUDPで高速リアルタイムデータ出力することで、測定したデータをHILSの制御ループに連携させることができます。
図2のグラフは、LR8102のUDP出力の通信周期の実証試験結果を示しています。5 ms毎に測定データをUDP出力し、遅延を観測しました。14万回を超えるプロットを繰り返しても、通信周期は5 ms ±600 µs以内と非常に安定していることがわかります。周期安定性が高いので、シミュレーションシステムにデータを高速出力しても安定した測定データを取得できます。
(グラフは1パケットをスイッチングHUB経由で受信した結果です。)
図2 LR8102のUDP出力通信周期
2. 高い絶縁性能:DC1500 V CAT II
高電圧バッテリーパックのセル電圧を安全に測定するためには、高い絶縁性能が不可欠です。例えば、総電圧800 Vのバッテリーパックのセル電圧を測定するには、モジュール間電圧800 Vおよび対地間電圧800 Vの絶縁性能が必要です。電圧・温度モジュールM7100はEN IEC 61010 安全規格に準拠したDC 1500 V CAT IIの絶縁性能で、高電圧システムを安全に測定できます。
3. 高電圧バッテリーの測定に対応できるチャネル数:800 ch(5 msサンプリング時)
高電圧バッテリーパックのセルの電圧と温度を測定するためには、多チャネルの測定が必要です。例えばセル電圧を4 Vとした場合、総電圧800 Vのバッテリーパックを構成するセルの数は200個です。そのすべてのセルの電圧と温度を測定するには400 chが必要です。EVの開発現場では、実験レベルでは1000 Vを超えるバッテリーも試作されており、今後さらに多チャネルが必要となることが見込まれます。
データロガーLR8102は、データロガー本体と測定モジュールを組み合わせることで入力チャネル数を自由に拡張できます。図3のようにM7100を10台連結したLR8102を光接続ケーブルで10台サンプリング同期すると、最大800 chを5 msサンプリングで測定できるシステムが構成できます。M7100で測定したデータは連結したLR8102で収集し、すべてのデータは5 ms以内にプライマリー機へ集約されます。集約されたデータはプライマリー機のデータ出力専用のLAN2ポートからリアルタイム高速出力されます。
注)1台のM7100の使用チャネル数が8 ch以内かつ、すべてのチャネルのレンジが電圧レンジの時、5 msサンプリングで測定できます。温度測定は10msサンプリングから測定できます。
図3
システム例
ここでは、データロガーLR8102と電圧・温度モジュールM7100を最大数使用した場合のシステム例をご紹介します。LR8102は最大10台まで同期することができます。LR8102にM7100を各10台連結すると、最大100台のM7100を使った計測システムを組むことができます。M7100で測定するパラメーターは自由に組み合わせることができます。この例では、100台のM7100のうち、70台を電圧測定、30台を温度測定に使用します。
図4のように、10台のLR8102を光接続ケーブルで接続してサンプリング同期します。LR8102それぞれに電圧・温度モジュールM7100を10台連結します。この計測システムで、電圧(560 ch、5msサンプリング)と温度(450 ch、10 msサンプリング)を一度に測定できます。すべてのデータは5 ms以内にプライマリ機に集約され、データ出力専用のLAN2ポートからリアルタイム高速出力されます。このようにLR8102と計測モジュールで多ch計測システムを組めば、1500Vの大規模バッテリーシステムの充放電試験でHILSと連携することも可能です。
注)1台のM7100の使用チャネル数が8 ch以内かつ、すべてのチャネルのレンジが電圧レンジの時、5 msサンプリングで測定できます。温度測定は10msサンプリングから測定できます。
図4
まとめ
HILSのようなリアルタイム性が求められる制御シミュレーションにデータロガーを組み込むには、データロガーのサンプリング速度とデータ出力速度がとても重要です。また高電圧バッテリーパックの測定をする場合は、多チャネル測定ができ、高い絶縁性能を備えていることが求められます。HIOKIのデータロガーLR8102と計測モジュールのM7100を組み合わせたシステムで、最高サンプリング5 msで安全かつ正確にデータを取得し、そのデータをリアルタイム高速出力できます。HILSとのスムーズな連携をサポートし、EVの開発に貢献します。なお、この製品に付属するDVDには受信するシステムのサンプルプログラムが収録されています。このサンプルプログラムを実行すると、LR8102の測定値をUDPで受信し、出力形式ごとに物理量に変換してファイルに保存しますので、UDPの動作をすぐにお試しいただけます。
この製品について、詳しくはHIOKIのウェブサイトの製品ページをご覧ください。デモ機のご要望や測定に関するご相談は、HIOKIの担当者にご連絡ください。
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