アプリケーション・用途

パワースペクトラム解析(PSA)機能によるインバーターモーターの損失究明

はじめに

近年、高速スイッチングが可能なパワー半導体SiCやGaNを使用する高効率なインバーターの開発が進んでいます。しかしながら、インバーター駆動におけるモーターへの入力電力のうち、回転力に直接寄与するのは基本波電力であり、それ以外の高周波成分は無効なエネルギー(熱・音・振動)として失われます。そこで、高効率なインバーターモーターシステムの開発には高周波の電力損失の低減が注目され、その要因を分析するために正確な電力測定データが必要とされています。

このアプリケーションノートでは一般的なパワーアナライザにおける高調波解析と高精度パワーアナライザPW8001のパワースペクトラム解析(PSA)機能の違いと、パワースペクトラム解析を利用したインバーターモーターの損失要因推定を紹介します。

目次

  • 高調波解析とFFT解析の違い
  • 高精度パワーアナライザPW8001のパワースペクトラム解析(PSA)機能
  • パワースペクトラム解析を活用したインバーターモーターの損失要因推定

高調波解析とFFT解析の違い

図1はインバーターが出力する有効電力の周波数分布を表しています。インバーターの出力電力には、モーターを駆動する基本周波数成分とその高調波と(青い部分)、インバーターのキャリア周波数とその高調波(黄色い部分)が含まれています。モーターの駆動に寄与するエネルギーは基本周波数のみであるため、それ以外の周波数の電力は損失となります。電力損失の周波数分析に使う高調波解析とパワースペクトラム解析(=電力FFT)はそれぞれ目的が異なります。高調波解析は基本周波数を含む低周波領域の解析に適しており、FFT解析は高周波のキャリア周波数成分を解析するのに適しています。それぞれの違いを解説します。


図1: インバーターが出力する有効電力の周波数分布

高調波解析とは?

高調波解析は、信号の基本周波数とその整数倍の周波数成分を次数で表します。ステータやロータの配置等の機械的な条件によって決まった次数数に発生する高調波ひずみの分析に利用されます。一方、スイッチングによって発生するキャリア周波数成分は基本波周波数に関係なく、決まった周波数に現れます。つまり、基本波周波数が時々刻々と変化するモーター解析において、高調波解析を利用してスイッチング周波数成分を連続的に測定することはできません。例えば、キャリア周波数10kHzの場合、基本波100Hzの時キャリア周波数は100次を参照しますが、基本波10Hzの時キャリア周波数は1000次を参照する必要があります。

FFT(Fast Fourier Transform)解析とは?

FFT解析は信号を周波数成分に変換し、その周波数成分の強度を示すスペクトルとして表します。
インバーターのキャリア周波数(スイッチング周波数)はモーターの回転速度によらず常に一定であるため、FFT解析によって周波数軸で観測することで電圧や電流の変動を直感的・連続的に把握できます。

高精度パワーアナライザPW8001のパワースペクトラム解析 (PSA)機能



PW8001は、電圧と電流のFFTを進化させ、有効電力のFFTが可能なパワースペクトラム解析機能を搭載しています。もしも測定器の位相特性が適切でない場合、インバーターによって駆動されるモーターにおいて、その電力スペクトラムがマイナスとして測定されてしまう事もあります。しかしPW8001は、周波数特性の優れた電流センサーと自動位相補正の技術とによって、広帯域で正確な有効電力のFFT解析を実現します。


パワースペクトラム解析機能は、比類ない高周波電力測定精度をもつPW8001が、高周波の電力損失解析に向けて自信をもって提供する新機能です。この機能はPW8001のファームウェアV2.0より、すべてのユーザが利用できます。表1は表1: PW8001のパワースペクトラム解析(PSA)機能の概要仕様を表します。


表1: PW8001のパワースペクトラム解析(PSA)機能の概要仕様

項目仕様
測定チャネル
  • 電圧電流波形: チャネルまたは結線単位で選択する。最大3チャネル
  • モーター波形: アナログDC
  • 演算種類
  • RMSスペクトラム (複数チャネルを選択時は各チャネルの平均値)
  • パワースペクトラム(有効電力(P), ただし電圧電流波形選択時のみ。複数チャネルを選択時は各チャネルの加算値(Psum))
  • FFTポイント数1000点, 5000点, 10,000点, 50,000点, 100,000点, 500,000点, 1,000,000点, 5,000,000点
    アンチエイリアシングデジタルフィルター自動
    窓関数レクタンギュラー, ハニング, フラットトップ
    最大解析周波数
  • 電圧電流波形: 6 MHz (U7005選択時), 1 MHz (U7001選択時)
  • モーター波形入力:400kHz
  • 波形記録の圧縮比に連動

  • パワースペクトラム解析を活用したインバーターモーターの損失要因の推定

    パワースペクトラム解析機能が、一般的なパワーアナライザの高調波解析ではできない損失要因の分析を可能にします。例として、インバーター駆動モーターにおける高調波電力損失の測定事例を紹介します。

    インバーター駆動モーターにおける高周波電力損失



    永久磁⽯同期モーターや誘導電動機はインバーターで駆動され、スイッチングによる高周波電流の影響によりモーターの鉄損が増加することが知られています。また、コイル素線に⾓線を⽤いるとモーターの⾼回転側では素線内で電流が偏り、銅損が増加します。モーターの駆動に寄与しない⾼周波の電⼒値とその周波数分布をリアルタイムに観測することで、モーターの回転速度やトルク条件の変化と⾼周波電⼒損失の推移を直感的に理解することができます。これは、モーター設計における機械的損失と、鉄損やAC銅損の⾼周波電⼒損失を分離する損失要因分析の重要な⼿がかりを得ることに繋がります。


    図2は、PW8001のパワースペクトラム解析(PSA)機能の画面で、インバーターモーター駆動波形の高調波電力損失が観測されます。
    PW8001を使⽤して、キャリア周波数16 kHzの三相インバーター出⼒波形のパワースペクトラム解析を⾏うと、キャリア周波数とその⾼調波電⼒スペクトラムを観測することができます。同一画面にて、トップ10リストとしてスペクトラムの具体的周波数と電力値を確認することができます。さらに、全てのスペクトラムはCSVデータとして記録して詳細解析に活用できます。


    図2: パワースペクトラム解析(PSA)機能の画面

    最後に

    インバーターモーターの性能評価において、パワーアナライザPW8001は周波数特性の優れた電流センサーと自動位相補正の技術とによって、広帯域で正確な測定の結果を得られるだけでなく、パワースペクトラム解析機能で高周波電力損失の素早い洞察を同時に得ることができます。0.1%の電力変換効率を追求するすべての技術者に、電力損失の究明で貢献するパワーアナライザPW8001をお試しください。製品についてより詳しく知りたい方は製品ページへご確認ください。また、製品のデモ依頼やアプリケーションに関する相談はHIOKIの担当者にご連絡ください。PW8001の最新ファームウェアの詳細はこちらをご覧ください。

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