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アプリケーション・用途
高調波および電圧変動/フリッカ試験は、電気製品に対して求められるIEC規格の電力品質に関する低周波エミッションと呼ばれるEMC試験の一部です。近年ではパワーコンディショナーだけでなく、一般家庭のインバーター製品の高周波ノイズも電源品質の問題として認知されています。
このアプリケーションノートでは、IEC規格に適合するための高調波や電圧変動/フリッカといった低周波エミッション測定と、高周波ノイズ測定が可能なパワーアナライザPW8001のノイズ対策への活用法について紹介します。
高調波試験では、機器の消費電流波形のひずみ成分を測定します。高調波電流は機器の誤動作や故障、電力系統の無効電力を増加させる原因となるため、高調波電流に対する限度値が試験規格により定められています。
電圧変動/フリッカ試験は、電源電圧の変動と照明のちらつき(フリッカ)に対する試験です。電気製品の消費電流の変化によって電源電圧が変動すると、照明のちらつきが発生します。フリッカは人に不快感を与える健康被害の原因であるため、電圧変動/フリッカに対して限度値が試験規格で定められています。
試験対象ごとに試験条件や限度値判定の基準があり、試験は最新の試験規格を参照する必要があります。また、試験に使用する測定機器は測定規格に準拠したものが必要です。パワーアナライザPW8001はIEC高調波および電圧変動/フリッカ試験における測定規格に準拠したパワーアナライザです。
図1は高調波、電圧変動/フリッカ試験システムのブロック図を示しています。IEC高調波および電圧変動/フリッカのー試験規格には、交流電源とRIN(Reference Impedance Network)を持つ試験システムを使用します。パワーアナライザは測定対象の電源電圧と電流を測定し、測定規格に基づく測定結果を出力します。電流測定には電流センサーを使用します。電流測定のために電源配線を引き回す必要がないため、配線や計器損失の影響を軽減し、実稼働環境に近い配線状態で測定できます。
図1:高調波、電圧変動/フリッカ試験システム
高調波および電圧変動/フリッカ試験は低周波のエミッションの試験です。しかし、インバーターを使用する環境によってはごくまれにインバーター機器のスイッチングノイズが予想を越える高いレベルで発生し,周りの機器が故障する市場トラブルが確認されています(*1)。電源ノイズによるトラブルを未然に防ぎ、高調波や電圧変動の対策を行うために、機器開発の初期段階でノイズを確認することが有効です。早期にノイズ問題に手を打つことは、致命的な開発遅延を回避するためにも重要です。
HIOKIのパワーアナライザPW8001の更新ファームウェア Ver2.0でIEC高調波と電圧変動/フリッカ測定に加え、パワースペクトラム解析(PSA)機能が搭載されました。
限度値判定を伴う規格試験の場合は、専用の試験システムを使用する必要がありますが、開発初期の評価においても高調波と電圧変動を確認することで、傾向が把握でき、早期の対策が可能です。例えば、電源回路の設計を変更後、高調波電流が増加していることが判明すれば、EMCテストで限度値を超える恐れがあるため、ノイズ低減のための対策が必要と早期に判断できます。
IEC高調波測定モード設定画面 (左)と電圧変動/フリッカ測定モード設定画面(右)
電圧、電流と電力のFFT解析ができるパワースペクトラム解析機能では、高調波解析機能よりも高い周波数のノイズ(最大6MHz)を解析できるので、IEC高調波や電圧変動/フリッカでは見えないノイズを視覚的に確認できます。PW8001は1 MHzまでの電力測定確度を保証しており、インバータやスイッチング電源により発生するとされる高周波の伝導ノイズの評価に大変有効です。
PW8001は正確な電力測定と、高調波やパワースペクトラム解析など全ての演算を同時並列に処理します。また、入力波形の大きさや周波数に応じて、測定レンジやフィルターの特性は内部で最適な状態に自動更新されます。これにより、一度の測定で全ての解析結果が正確に測定でき、多角的な検証が可能となります。
PW8001電力解析エンジンの同時演算処理アーキテクチャ
パワーアナライザPW8001は、測定用途に合わせて選べる2種類の入力ユニットと、定格2 A~2000 Aの幅広いラインアップの電流センサーに対応しています。必要となる測定確度と測定周波数帯域に応じて、2種類の入力ユニット混在で8チャネルまで搭載可能です。
HIOKIは業界で唯一、高性能な電流センサーとパワーアナライザの両方を自社開発しており、その組み合わせは最高確度を誇ります。表1に示すようにHIOKI電流センサーは、50Hz/60Hzに限らず高周波まで確度を規定しているため、高調波解析・ノイズ解析に非常に効果的です。
表1: PW8001と電流センサーの組み合わせ確度の一例
電流センサー組み合わせ測定確度 | 周波数: ±% of reading ± % of range |
---|---|
PW8001+U7001+CT6873 電流センサー | DC: ±0.05% ±0.057% |
45 Hz ≤ f ≤ 66 Hz: ±0.05% ±0.052% | |
5 kHz < f ≦ 10 kHz:±U7001確度(0.15% + 0.05%) ±電流センサー確度(0.2% + 0.02%)** | |
PW8001+U7005+CT6873 電流センサー | DC: ±0.05% ±0.032% |
45 Hz ≤ f ≤ 66 Hz: ±0.04% ±0.027% | |
5 kHz < f ≦ 10 kHz U7005確度(0.05% + 0.05%) ±電流センサー確度(0.2% + 0.02%)** |
** Full scale 誤差は電流センサー定格も考慮。その他周波数は取扱説明書に記載
表2はPW8001のIEC高調波モードの測定仕様の概要を表しています。測定の結果は、奇数次と偶数次に分けて表示できるため、見やすく直感的な結果確認ができます。表3と表4はそれぞれフリッカ測定仕様とFFTおよびパワースペクトラム解析機能の概要仕様を表しています。
表2: IEC高調波モードの測定仕様
項目 | 仕様 |
---|---|
測定方式 | IEC61000-4-7:2002 準拠, ギャップオーバーラップなし |
測定周波数設定 | 50 Hz/60 Hz |
同期周波数範囲 | 50 Hz設定時:45 Hz ~ 55 Hz |
60 Hz設定時:56 Hz ~ 66 Hz | |
データ更新レート | 約200 ms固定 (50 Hz時は10波, 60 Hz時は12波) |
解析次数 | 高調波:0次~ 200次 |
中間高調波:0.5次~ 200.5次 | |
ウインドウ波数 | 50 Hz設定時:10波、60 Hz設定時:12波 |
FFTポイント数 | 8192ポイント |
測定確度 | 各周波数設定の同期周波数範囲において、各ユニットの電圧・電流・電力・位相測定確度に±0.04% of rangeを加算。10 kHz以上については、さらに±0.04% of rangeを加算 |
表3: フリッカ測定仕様
項目 | 仕様 |
---|---|
測定チャネル | 最大8チャネル |
測定方式 | IEC 61000-4-15 Ed2.0:2010 フリッカメータークラスF2 に準拠 |
測定項目短期間 | |
測定周波数 | 50 Hz / 60 Hz(IEC測定モード時のみ測定) |
測定レンジ | Pst, Plt:0.0001 P.U. ~ 6400 P.U. (対数で1400分割) |
フリッカフィルター | 230 V lamp、120 V lamp |
測定確度 |
表4: PW8001のパワースペクトラム解析(PSA)機能の概要仕様
項目 | 仕様 |
---|---|
測定チャネル | |
演算種類 | |
FFTポイント数 | 1000点, 5000点, 10,000点, 50,000点, 100,000点, 500,000点, 1,000,000点, 5,000,000点 |
アンチエイリアシング | デジタルフィルター自動 |
窓関数 | レクタンギュラー, ハニング, フラットトップ |
最大解析周波数 |
PW8001はIEC規格に準拠した高調波および電圧変動/フリッカの測定を行うことができます。そして、「電源ノイズの問題が見えないまま、対策が後手に回る設計の状況から抜け出したい」「スイッチングノイズの問題に先手を打ちたい」という開発者の皆様に向け、パワースペクトラム解析(PSA)機能が高周波ノイズ評価の手段を提供します。製品についてより詳しく知りたい方は製品ページへご確認ください。また、製品のデモ依頼やアプリケーションに関する相談はHIOKIの担当者にご連絡ください。PW8001の最新ファームウェアの詳細はこちらをご覧ください。
*1) 参考文献 : 西島健一:「スイッチング電源に搭載した EMC フィルタの 伝導 EMI ノイズ低減効果に関する検討」, パワーエレクトロニクス学会誌 Vol.45
[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jipe/45/0/45_106/_article/-char/ja/]