アプリケーション・用途

ハイエンドクラスのパワーアナライザーによるSiCインバーターの実測比較

はじめに

近年、高速スイッチングが可能なパワー半導体であるSiCやGaNを使用した高効率なインバーターの開発が進んでいます。これらのパワー半導体を採用することで、インバーターのスイッチングが高速化し、平滑化用コイルやコンデンサなどの部品を小型化できます。さらにはスイッチング損失の低減によりヒートシンクをはじめとする放熱部品の小型化ができ、結果としてインバーターやモーター全体の高効率化や小型軽量化が実現できます。 しかし、スイッチングの高速化に伴い、従来以上に広帯域で高精度な電力測定が求められるため、適切な機種の選定が非常に重要です。 本アプリケーションノートでは、パワーアナライザ PW8001とA社のハイエンドクラスのパワーアナライザを使用して、SiCインバーターの効率を実測で比較した結果をご紹介します。




インバーター出力電力の測定誤差の影響

インバーターやモーターの小型軽量化および高効率化を図るため、スイッチング周波数の高速化が進んでいます。しかし、スイッチング周波数の高速化に伴い、インバーターの出力電力を正確に測定することが難しくなっています。 例えば、自動車におけるインバーター開発では、燃費の改善や充電時間の短縮を目的として、10 W単位での熱マネジメントが行われています。インバーター損失やモーター損失を正確に測定することで、最適な熱マネジメント設計ができます。 しかし、これらの測定誤差が大きくなり、実際よりも大きな損失があると誤認してしまうと、過剰な熱マネジメントを施してしまい、その結果、小型軽量化の実現が困難になるおそれがあります。以上の理由から、インバーター出力電力を正確に測定することが非常に重要です。



SiCインバーター・モーターの効率実測比較

SiCインバーターの効率を実測で比較した際のブロック図を示します。インバーターの入力電力(1P2W)、インバーターの出力電力(3P3W2M)、およびモーターパワーの3つのポイントを、2機種のパワーアナライザで同時に測定しています。さらに、PW8001はAC/DCカレントセンサCT6904Aと組み合わせて測定を行っているため、条件を揃える目的で、A社のパワーアナライザにも対応するA社の電流センサーを組み合わせて測定を実施しています。






インバーター効率、モーター効率、総合効率の比較

本実験では、SiCインバーターのスイッチング周波数を10 kHz、20 kHz、100 kHz、200 kHzと変化させた状態で、インバーター効率、モーター効率をそれぞれ測定しました。インバーター効率の比較結果を見ると、スイッチング周波数が高くなるにつれて、2機種間の差が大きくなっていることがわかります。また、モーター効率の比較結果では、スイッチング周波数の増加に伴い差が大きくなるだけでなく、A社パワーアナライザでは効率が100%を超えてしまうという結果になりました。






次の図はスイッチング周波数が100 kHzの条件におけるインバーター効率、モーター効率、総合効率を比較した結果です。実際の測定値を確認すると、インバーター入力であるDC電力や、トルク計・エンコーダから算出されるモーターパワーには大きな差がないことがわかります。しかし、インバーター出力である三相電力の数値には大きな差異が見られます。 例えば、インバーター損失に注目すると、PW8001の測定結果では損失が0.17 kWであるのに対し、A社のパワーアナライザでは損失が0.83 kWとなっています。 測定値を誤認してしまうと、余分な放熱対策や制御設計の見直しが必要になります。




高速スイッチングするインバーター電力を正確に測定できるパワーアナライザの選定基準

インバーター出力電力の特徴

なぜ有効電力に差が出たのでしょうか?次の図は、インバーターが出力する有効電力の周波数分布を示しています。インバーターの出力電力には、モーターを駆動する基本周波数成分とその高調波(青色の部分)、およびインバーターのスイッチング周波数とその高調波(赤色の部分)が含まれています。このように、低周波から高周波まで広範囲にわたって有効電力が分布しているため、インバーターの出力電力を正確に測定するには、広帯域に対応したパワーアナライザが不可欠です。さらに、インバーターの出力電力におけるスイッチング周波数とその高調波成分は低力率であるため、出力電圧と出力電流の位相差を高周波域まで正確に捉えることが求められます。




位相確度の重要性

インバーター出力電力を正確に測定するためには、特にスイッチング周波数とその高調波成分を正確に測定することが重要ですが、高周波では低力率(=電圧電流位相差が90º)となるため、測定器には高い位相確度が求められます。位相誤差は特に低力率の有効電力の測定に大きな影響を与えます。例えば、88ºの位相に対して測定器の位相誤差が1ºの場合、有効電力に換算したときの誤差は約50%にもなります。弊社では高精度電流センサーを自社開発しており、センサー各機種の位相特性を把握しているため、広帯域に渡る位相補正を実現しています。例えば100 kHzの位相誤差を比較したとき、A社の電流センサーでは1.0º以上の位相差が生じているのに対して、HIOKI CT6904Aは0.01º以下の誤差となっています。




まとめ

ハイエンドクラスのパワーアナライザを用いてSiCインバーターの実測による比較を行いました。競合のパワーアナライザと比較すると、インバーター出力電力に明確な差が見られました。結果としては高周波のスイッチング周波数まで正確に測定できるPW8001の測定値が確からしいと考えられます。
インバーターの出力電力におけるスイッチング周波数とその高調波成分は低力率であるため、広帯域かつ位相精度のよいパワーアナライザと電流センサーを選定することがポイントです。

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