アプリケーション・用途

計測ガイド:モーターパラメーター Ld, Lq

電気自動車のモーターには、モーターの回転数を低速から高速まで効率よく制御できる高度な正弦波制御が利用されており、燃費性能と走行性能の両立に欠かせない技術です。

このアプリケーションノートでは、電気自動車用モーターのみならず、産業用の高効率モーターとして広く採用される永久磁石同期モーター(PMSM)で利用される、電気モーターのベクトル制御(フィールド指向制御)にとって重要なモーターパラメーターの測定方法を紹介します。
HIOKIのパワーアナライザとモーターパラメーター測定のためのPCソフトウェアを導入することで、駆動条件に依存するモーターパラメーターを正確かつ効率的に収集できます。

q軸インダクタンスとd軸インダクタンスの違い



モーターの回転子(ローター)とd軸、q軸の関係


Ld, Lq パラメータとは?

モーターパラメータLdとLqとは、モーターの回転磁界に関連するq軸およびd軸のインダクタンスを指します。永久磁石同期モータ(PMSM)や同期リラクタンスモータ(SynRM)のベクトル制御に必要なパラメータです。


  • d軸インダクタンス(Ld):d軸は永久磁石の磁場方向と同一です。Ldは磁石の極の中心を指す軸上でのモーターのインダクタンスを表します。
  • p軸インダクタンス(Lq):q軸はd軸と直行する軸です。Lqはトルク生成に寄与する電流成分の軸上のインダクタンスを表します。

これらのLdとLqの基本的な違いは永久磁石の配置や、モーターの構造の違いが影響を与えます。さらに、LdとLqは駆動電流の増加によってインダクタンスが低下するという電流依存性があります。PMSMとその制御システムの開発者にとって、正確で効果的なモーター制御を達成するのが目標です。そのためにはLdとLqの電流依存特性を理解することが不可欠です。




電流依存性のあるd軸とq軸のインダクタンスの例

パワーアナライザがLd, Lqの測定に適している理由

パワーアナライザはモーターの電力効率の測定に加え、LdとLqの測定に必要な高確度なセンシングと演算能力をもっており、ほかの計測手法よりも効率的な測定ができます。


 

パワーアナライザ PW8001

モーターパラメータLd, Lqを分析する場合、駆動電流の大きさと位相を正確にセンシングし、演算により算出します。正確な測定のために計測ツールは2つの要件を満たしている必要があります。

  • 電圧と電流の振幅と位相を高確度で測定できること
  • ローターの回転角を検出し、d軸を基準とした電流を計算すること

Ld, Lqの測定には、PWM制御によって大きく歪んだ電圧、およびそれによって生じる電流の波形を元に、それらの正確な基本波成分実効値と位相測定が必要です。これを実現するには、オシロスコープのような波形記録計ではなく、高分解能かつ高確度な波形補足性能と、専用の高調波解析機能を備えた専用器、すなわちパワーアナライザが必要になります。




パワーアナライザ PW8001はPWMインバータの電圧と電流、モーター電力効率の正確な測定が可能


モーターの制御エンジニアは、LdとLqの測定結果を制御プログラムに適用し、モーターの特性や効率の向上に寄与しているかを検証します。その際、パワーアナライザはモーターの回転速度とトルクによって変化する効率の測定結果と、モーターパラメーターLdとLqの測定結果を同時に検証でき、一度のデータ取得で包括的な評価を行うことが可能です。

Ld, Lqの測定



LdとLqインダクタンスは、d軸とq軸電圧、電流から演算される


LdとLqのデータを取得する前に、LdとLqの演算に必要な2つの定数(RとKe)を測定する必要があります。 以下の手順1~手順3で、その測定手順の概要を示します。


1. 電機子抵抗(R)の測定

HIOKIのRM3548などの高精度抵抗計を使用して、モーターの三相巻線抵抗を測定します。これらの値を平均して、電気子抵抗Rを計算します。




抵抗計RM3548を使用したモーターの電気子抵抗の測定


2. 機器の接続

電流センサーと電圧ケーブルを3相モーター駆動配線に接続して、モーター駆動電流、電圧およびローター角度を検出します。位相ゼロアジャストが必要なため、負荷モーターを使用してDUTモーターを駆動し、モーター誘起電圧を計測します。




モーター評価システムの構成

3. 位相ゼロアジャストと誘起電圧定数の計測

パワーアナライザ PW8001で利用できるLd、Lq測定のためのPCソフトウェアを使用すると、LdとLq測定の手順に沿った設定フローに従うだけで、ユーザーはソフトウェア上ですべての操作を完了できます。

PW8001 Ld, Lq Analyzer

  • 位相ゼロアジャストリアルタイムプロットグラフにより位相ゼロアジャストを直感的に確認できます。グラフ上の0 degのプロットが正しくゼロアジャストされたことを示します。
  • 誘起電圧定数Keの計測:Ke値の安定性をリアルタイムで表示します。LdおよびLq計算のための定数Keパラメーターの正確な決定をサポートします。



PW8001 Ld, Lq Analyzerの位相ゼロアジャストとKe測定画面

4. Ld, Lqの測定

測定データの収集とモーターパラメーターの演算はすべて自動で行われます。より詳しく特性を把握するために、X-Yグラフを含むLdおよびLq値のリアルタイムグラフ作成と分析をPCソフトウェアが行います。

  • Ld, Lqのリアルタイムプロット
  • Ld-Id, Lq-IqのX-Yグラフ
  • 基本電力データと、モーターパワーの最大6つパラメーターのリアルタイムプロット 



Ld, Lqのリアルタイムプロットグラフ




モーターパワーと効率のリアルタイムプロットグラフ


これらのテスト結果から、パワーアナライザ PW8001でモーターのLdとLqのデータ取得ができることが示されました。

まとめ

この記事では、次のような質問に対する答えを示しました。


  • モーターのLdとLqの正確な値がなぜ重要か
  • モーターのLdとLqをどのように測定するか

モーターの高度なベクトル制御(フィールド指向制御)は、さまざまな動作条件でのLdとLqを正確に特定し、性能向上を検証することにより実現されています。


HIOKIのパワーアナライザ PW8001は高精度な電力測定という基本的な役割だけでなく、モーターパラメーターの測定にも最適であることが示されています。計測ハードウェアだけでなく、設定作業とデータ取得を容易にし、直感的な分析を提供するソフトウェアを導入することで評価工数を削減し、開発期間短縮に貢献します。


ソフトウェア PW8001 Ld, Lq Analyzerはこちらからダウンロードできます。

関連製品一覧

ページ先頭へ

ページ先頭へ