アプリケーション・用途

可変速駆動モーターの損失分離と効率マップの作成

はじめに

電気自動車のモーターには、低速から高速まで効率よく出力できることが求められます。そこで、モーターの回転数とトルクを変化させ、それぞれのパラメータの値において、どれくらいの効率で動作しているかを表す効率マップを作成することが重要です。
このアプリケーションノートでは、永久磁石同期モーター(PMSM)の効率を測定し、測定値をもとに作成した効率マップを紹介します。

インバーター出力とモーター出力、損失の関係




画像1:モーター出力と損失


インバーターからモーターに電圧が供給されると、モーターの巻線に電流が流れ、これによりステーターに磁束が発生します。その磁束が作り出す磁界によってローターが回転します。 PMSMは、インバーターの出力電圧の基本波に同期して回転するので、モーターの出力には基本波成分が寄与します。また、基本波成分の一部はモーターの鉄損や銅損として消費されます。 一方、基本波の高調波成分やスイッチング周波数などの高周波成分は損失となります。

モーター効率の測定




画像2:インバーターの電圧・電流波形


モーターシステムをパワーアナライザで測定すると、インバーターの全出力だけでなく、基本波のみの出力が測定できます。 また、モーターのトルクと回転数を測定することにより、モーターの出力が測定できます。 パワーアナライザには、これらの値を元に効率や損失を内部で演算する機能があります。そのため、効率マップの作成において必要な測定データを簡単に収集することができます。






画像3:基本波出力とモーター出力の測定

損失の分離:銅損と鉄損

モーターの効率を改善するためには、銅損と鉄損を分離してそれぞれの損失を特定する必要があります。銅損は巻線の抵抗による損失です。鉄損は渦電流損とヒステリシス損からなり、磁界と周波数に影響されます。パワーアナライザでこれらの損失を分離し、それぞれの動作条件における損失をマップにして表すことができます。

銅損の計算

モーターの銅損は、モーターのコイルに電流が流れる際に、コイルの巻線抵抗により生じる損失です。よって、あらかじめモーターの巻線抵抗を測定しておき、パワーアナライザで測定した電流(Irms)により銅損を求めることができます。




画像4:抵抗計RM3548を使用したモータの巻線抵抗の測定


パワーアナライザでは基本波の電流(Ifnd)も測定するので、すべての銅損(Pc)だけでなく、基本波の銅損(Pcfnd)を求めることもできます。モーターの各相の巻線抵抗の値をR1、R2、R3とすると、それぞれの銅損は以下の式により計算できます。なお、PcとPcfndの差が高調波や高周波成分による銅損(Pchrm)になります。




パワーアナライザには「ユーザ定義演算(UDF)」という機能があるので、式を定義しておくことにより、測定した値と一緒に銅損を求めることができます。




画像5:ユーザ定義演算の設定例





画像6:全銅損Pc(UDF1)と基本波銅損Pcfnd(UDF2)

鉄損の計算

鉄損は、今まで求めた出力や損失から求めることができます。




この中には機械損も含まれますが、機械損を分離して計測するのは難しく、一般的に割合も小さいため、この資料では鉄損に含めています。

効率マップの作成

モーターの出力は、モーターのトルクと回転数により決まります。電気自動車のように幅広い回転数とトルクにおける動作が必要とされるモーターでは、動作条件により銅損や鉄損がどの様に分布するのかを把握することが設計の改善につながります。そのため、動作条件を元にした効率と損失のマップ(総損失、銅損、鉄損)を作成し、インバーターとモーターの設計に役立てることができます。

効率マップの作成例

得られたデータを元に、MATLAB*を使用して効率マップを作成しました。
* MATLAB is a software product by MathWorks.




画像7:効率マップ例

高精度なモーター効率マップを作成するために

モーターの効率や損失は、今まで見てきた通り、インバーターの出力とモーターの出力から求めることができます。しかし、以下のような理由からモーター効率・損失を高精度に測定するのは困難です。

  • インバーター出力はPWM変調されているため、スイッチング周波数とその高調波成分を含み、広帯域な電力測定が必要になる。
  • インバーターの高調波電力は低力率であるため、測定器の位相誤差が大きいと高調波電力を正確に測定することができない。
  • モーターは低速から高速まで広い回転数領域で動作するため、全動作領域で高精度な計測が要求される。


PW8001は、DCから5 MHzまでの広い周波数帯域をカバーし、基本確度0.03%で測定ができます。 また、確度の良い電流センサを用いた大電流測定が可能で、さらに電流センサ位相補正機能により、低力率でも高精度に測定ができます。



画像11:力率0におけるPW8001の周波数特性

まとめ

本アプリケーションノートでは電力効率と損失に関する理論を元に、PWMにより駆動されるPMSMの測定、損失を銅損と鉄損に分離する方法、効率と損失マップの作成について説明しました。 そして、研究開発や設計におけるモーター効率の改善に向けた実践的な計測、および、演算方法と、計測する上での課題をHIOKIのPW8001と電流センサによりいかに解決できるかについて紹介しました。 

 PW8001の高精度な計測能力と高い解析能力が貴社の研究開発をどのように向上させるかについて、より詳しくお知りになりたい場合は、PW8001の製品ページをご覧いただくか、お問い合わせフォームから弊社までご連絡ください。

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