測定誤差10%超⁉ SiC/GaNインバータ効率測定の鍵を握る電流センサー選び
エネルギーの有効利用がますます重要視される中、パワーエレクトロニクス機器へのSiC やGaN の利用が加速しています。これに伴い、SiCやGaNを利用した高効率機器の開発では、電力変換効率の性能向上を0.1%単位で正確に評価することが求められています。
しかし、あるインバーターの出力電力をHIOKIの電流センサーとA社の電流センサーで測定比較したところ、スイッチング周波数に比例して測定値の乖離が大きくなり、最大で10%以上の差が生じました。
0.1%の精度が求められる中で、なぜこのような大きな差が発生したのでしょうか?どちらの測定結果を信じればよいのでしょうか?
このアプリケーションノートでは、実測した測定結果の考察と、インバーター効率測定において電流センサーを選定するポイントをご紹介します。
1. 課題
インバーターの出力電力には、モーターを駆動する基本周波数成分とその高調波(青色箇所) と、インバーターのスイッチング周波数とその高調波(赤色箇所) が含まれています。基本波とその高調波成分は数kHz 程度の低周波数帯のため、従来のパワーアナライザーと電流センサーであれば比較的正確に測定することが可能です。
しかし、スイッチング周波数とその高調波成分は数十 kHz ~数 MHzの高周波帯かつ低力率となるため、広帯域に加え位相まで高精度に測定できるパワーアナライザ-と電流センサーが必要です。スイッチング周波数とその高調波成分で構成される高周波電力が正確に測定できない場合、測定値のばらつきや、効率の100%超過、損失の理論値との大幅な乖離といった問題を引き起こします。
■高周波測定におけるポイント
モーターの等価回路
モーターの等価回路は抵抗とインダクタから構成されます。高周波( 数十 kHz以上) ではインダクタ成分によるインピーダンスが支配的となり、低力率となります。そのためインバーターのキャリア周波数も含め正確に測定できる広帯域の測定器が必要です。
低力率測定の特徴
低力率測定においては、電圧電流位相差が90°近くになり、位相のわずかなずれが大きな測定誤差となります。位相誤差の大きい測定器を用いた場合は、位相が90°を超えてしまうこともあり、電力誤差に与える影響が大きくなります。
2. インバーター出力電力の測定比較
パワーアナライザ-本体としてハイエンドモデルのPW8001を使用し、位相特性の優れた電流センサーCT6904Aと、A社電流出力タイプの電流センサー(1000 A定格、~ 300 kHz帯域) を用いて比較しました。結線を含む測定条件は同一としています。位相特性の違いが高周波電力の測定にどのような影響を与えるのか確認してみましょう。
■測定構成ブロック図
■電流センサーの特性の違いによる有効電力の測定イメージ
インバーター出力の有効電力の周波数分布は基本波とその高調波成分、スイッチング周波数とその高調波成分に分離されます。基本波を含むすべての有効電力は、すべてモーターのエネルギーとして消費されるため、理想的な測定結果としては解析画面上では正の成分として表れます。
しかし、20 kHz以上の高周波の領域では低力率な電力となってくるため、位相特性が悪い電流センサーを用いた場合、本来正の成分として出てくるべき有効電力が負の成分として出てきてしまうことで測定結果に影響を及ぼすことがあります。
■パワースペクトラム解析(PSA) による電力損失の可視化
PW8001 Ver.2より、新たにパワースペクトラム解析(PSA)機能が搭載されました。これまでFFT 解析といえば電圧・電流から解析することが一般的でしたが、解析項目として新たに有効電力を追加することで各種周波数成分における電力の分布を可視化できます。
これにより負荷の消費と回生を視覚的に識別することが可能です。
関連動画:モーターの損失解析に活用できるPSA とは
機能紹介:パワースペクトラム解析(PSA) 機能によるインバーターモーターの損失究明
■測定比較結果
スイッチング周波数20 kHzの場合、有効電力では、約40 W(= 約2.1%) の差が出ていることがわかります。その理由をPSA機能を使用して解析してみましょう。
HIOKI CT6904Aで測定した結果は、スイッチング周波数とその高調波成分を含むすべての有効電力がプラス(消費電力) として表れています。一方、A社電流センサーで測定した結果は、スイッチング周波数の高周波電力がマイナス(回生電力) として誤って測定されています。
以上から、HIOKI CT6904Aの結果の方が確からしいと言えます。これは電流センサーの位相特性の差によって生じます。
■インバーター出力の有効電力誤差の比較
スイッチング周波数を上げていくにつれ、両者で比較した際の有効電力の差が大きくなりました。一般的に、インバーターにSiC/GaNを使用することによって効率を向上し、スイッチング周波数の高周波化によって小型化・軽量化を達成することが期待されています。
このような開発において効率を正確に測定するためには、電流センサーの位相特性の差が結果に顕著に影響することを念頭に電流センサーを選定することがポイントです。
3. HIOKI が提供するソリューション
パワーアナライザ―と電流センサーそれぞれ単体で広帯域測定に対して十分な性能を保証しているのに加え、組合せ状態の位相誤差まで規定しています。さらにPW8001では自動位相補正機能を備えており、広範囲に渡った位相補正を行うことで低力率における高精度測定を強力にサポートします。
HIOKIのパワーアナライザ―と電流センサーは、SiC/GaNを使用した高効率インバーターや、それと組み合わせて利用する高効率モーターの効率・損失測定に最適です。
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